陽のあたる裏路地

観た映画や、読んだ本について書くブログ。ぬるっと始めたので詳細はまだ不明。

『虚構推理 スリーピング・マーダー』

 

虚構推理 スリーピング・マーダー (講談社タイガ)

虚構推理 スリーピング・マーダー (講談社タイガ)

  • 作者:城平 京
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/21
  • メディア: 文庫
 

 

 アニメも絶賛放映中の『虚構推理』。アニメのエンディングの冒頭、画面いっぱいに映る模様はペイズリー柄という。なぜこの柄なのか、それは本書を読めばわかる。
 「スパイラル 推理の絆」などで知られる城平京の新たな代表作、それが「虚構推理」。今作はシリーズの三作目で、短編三つと中編「スリーピングマーダー」、それにエピローグという構成になっている。
 シリーズの名探偵役を務める岩永琴子は「知恵の神」である。妖怪変化たちのもたらす依頼を彼女は一足一眼の巫女として、知恵によって解決する。
 ただし、岩永は単に謎を解明する探偵ではない。岩永の明かす真相はあくまで人間と妖怪たち秩序のための「偽の真相」であり、異形の関わる謎を、いかにして妖の存在を否定して合理的な解決をでっちあげるか。これが『虚構推理』というタイトルの所以である。(*1
 この岩永琴子という異質の名探偵、それに妖怪変化の伝奇とどこまでも合理的な推理が混然となった作風がこのシリーズの魅力である。

 本作の中核をなす「スリーピング・マーダー」では、ある大富豪が岩永に依頼を持ってくる。その依頼は<妖狐の力によって妻を殺害し、完全犯罪を遂げたが、今になって自分の犯行だったと子供達の前で証明してほしい。ただし、妖狐の存在には触れずに>というもの。一見するととてもややこしいが、このややこしさが城平京の持ち味でもある。
 それは処女作の『名探偵に薔薇を』を読んでもわかる。この作品の扱う根幹の謎は「完全無欠な毒薬が、なぜ最悪の使い方をされたのか」というホワイダニットだった。この作者は前人未到の大トリックよりも、こういう捻ったシチュエーションによる謎を好む(というようなことを、本人も『スパイラル』のあとがきで書いていた気がする)。

 大富豪の元に集められる子供たち。岩永の巧みな誘導によって少しずつ家族の秘密を明らかにしていく。
 何年もの間、隠し続けていた家族の殺意が露わになり、やがて母親殺しについて、子供たちは一つの仮説にたどり着くのだが、そこからが最大の見所。

「礼を言われるのはまだ尚早かと」

 岩永の言葉をきっかけに、物事は逆転する。これまで積み重ねてきた虚構が、眠れる殺人を目覚めさせる。


 ミステリーは「秩序回復の物語」とも言われる
 謎によって乱された秩序を、名探偵が合理的な解決によって取り除くがミステリだと。そういう意味では、本作はとてもミステリらしい作品と言えそうだ。
 しかし、岩永にとっての秩序は人間たちの拠り所とする秩序とは異なる。岩永が求めるのは人間とは違う秩序、世の理を統べる神としての秩序だ。
 岩永は知恵の神として、触れるべきではなかった禁忌に触れた代償を人間に要求する。しかもそれらはどこまでも純粋な、岩永の「知恵」によってもたらされた。
怒涛の真相の後に残るのは、不条理なまでの力になすすべもない人間たちと、探偵・岩永琴子の秩序を求める呵責なき意志だ。その岩永の苛烈さが、この後の作品にどのような影を落とすのか。それがこれからのシリーズの見所となりそうである。

 

 

虚構推理 コミック 1-11巻セット

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↑ちなみに漫画版はこちら。 

 

 

*1:「ギロチン三四郎」のような例外もある