陽のあたる裏路地

観た映画や、読んだ本について書くブログ。ぬるっと始めたので詳細はまだ不明。

最近読んだ本への感想

最近読んだ本について感想をすこし。

 

ABC殺人事件』アガサ・クリスティ

 

 

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 

 

 超有名作だが読んだのは初めて。

 読んでいて非常にテンポが良い事に驚かされる。本当に、事件が次々と起こる。ポアロが推理する暇がないほどだ。その中で「ABC」の大ネタだけではなく手紙のトリックや関係者たちの恋愛模様まで入れ込むのがクリスティらしい。  

 犯人に翻弄されるポアロの姿と、犯人らしき人物の視点が交差することでサイコサスペンスの趣さえ出てくるが、最後はポアロの推理が冴え、不気味な犯人の姿が論理の力によって解き明かされる。

残忍さと寛容さという矛盾した犯人像が面白く、鮮烈でもある。

 ポアロの犯人を絞るプロファイリングが甘いと思えるのがちょっと惜しい。

 

『スタイルズ荘の怪事件』アガサ・クリスティ

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 クリスティの処女作であり、ポアロ初登場の作品でもある。すでにポアロや助手のヘイスティングズのキャラクターが完成していて、これがデビュー作とは思えない。

 ストーリーとしては端正だが、トリックもそれほどパンチの強いものではない。しかし意外な犯人の演出法や随所に忍ばせた伏線など、すでに非凡な物を見せている。

 また、事件関係者の恋愛など、のちの作品でも見られる要素も目立った。

 ところで初読の時は意識してなかったが、物語の舞台は第一次世界大戦の途中の出来事のようだが、そう感じさせない呑気さがある。

 

『海のカナリア入間人間

海のカナリア (電撃文庫)

海のカナリア (電撃文庫)

 

 久しぶりの百合以外の入間人間。しかしこの小説のジャンルは何だろう。よくわからない。ラブコメと言えなくもない気もするが、やはりSFが妥当だろうか。

 とにかく一章から先の読めない展開が続き、話がどこに着地するのか翻弄されるしかない。  

 そうして明らかになるのは全てを投げ出そうとする女子と、それを止めようとする男子の話。

現実を大事にしようとする主人公の心理とか、主人公にこだわる女の子の気持ちとか、もっと書いてほしいところもあるが、ともかく<自分のドザエモン>に助けてもらうシーンは笑える。

 ラストの名も知らない友達とのやりとりも、何気ないが好きだ。

 

スプートニクの恋人村上春樹

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 

 村上春樹はまあまあ好き。だけど発売された新作をすぐに読むようなファンではない。実は小説よりも春樹の書くエッセイが好きだったりする。

 久しぶりに村上春樹を読んで見たが、読み進めるうちに捉えどころがなくなっていき、着地点があまりパッとしない印象。

 でも村上春樹はそれでいい気がする。よくわからないけど、なんとなく印象に残る話を書き続けて欲しい。

 ただ、この「スプートニク」の主人公には結構イラっとした。大して取り柄がないくせに人妻にモテまくるなど、ちょっと鼻につく。

 ギリシャまでやってきた主人公の「ひとつだけ確かなことがあります。それは、もし本当のことが知りたくなかったならぼくはここには来なかっただろう、ということです。」という言い回しも気に触る。回りくどい言い方してんじゃねえ!もっとスっと話せよ!

 今まで村上春樹の主人公にこういうことを思わなかったが、なぜこの主人公にだけイラつくのだろう。

 

 この作品で自分がいちばん印象に残ったのが、物語の後半に主人公と不倫する人妻が語る言葉だ。

「わたしがまだ若かったころには、たくさんの人がわたしに進んで話しかけてくれた。そしていろんな話を聞かせてくれたわ。楽しい話や、美しい話や、不思議な話。でもある時点を通り過ぎてからは、もう誰もわたしには話しかけてこなくなった。誰ひとりとして。夫も、子供も、友だちも‥‥‥みんなよ。世の中にはもう話すべきことなんてなにもないんだというみたいに。ときどきね、自分の体が向こう側まですっかり透けて見えるんじゃないかって気がすることがあるの」

 

 あまり本筋と関わらないシーンで脇役がもらす孤独の言葉。この作品について思い出そうとする時、真っ先に思い浮かぶのはこの言葉だ。