陽のあたる裏路地

観た映画や、読んだ本について書くブログ。ぬるっと始めたので詳細はまだ不明。

安達としまむら(7) 入間人間

 

 

『いもーとらいふ』を読んだときにも思ったが、入間人間は働くことを実に嫌そうに書く。学生から社会人になり、これから何十年も同じ職場で働かなければならないことへの違和感、または会社に行くまでの、1日の始まりなのに体から抜けない疲労感、こういった社会人の乾いた生活を生々しく書けるのに、作者自身は社会人経験がないらしい。なんとなくずるい気がする。

 

 

 

安達としまむら』もついに7巻目。前巻で安達の誤爆気味の告白により、ついに「彼女と彼女」の関係になった二人。今作では付き合い出した二人の初々しいイチャイチャが描かれる。

 

念願叶ってしまむらと特別な関係になり、安達の赤面率は大幅アップ。告白を思い出してベッドを転げまわったり、辞書で「付き合う」の意味を調べてじたばたしたり、しまむらと一緒に登校し、ドキドキしすぎて顔から湯気を出してみたり、初期のクールさは見る影もない。

が、それ以上に際立つのはしまむらの人たらしっぷりで、特に電話を盗み聞きしようとする安達を黙らせるためにやった「あれ」にはびっくり、しかも2回目では見事な焦らしプレイまで披露し、安達以上にお付き合いを楽しんでいるように見える。

二人のいちゃつきは「恋人どうし」のそれというより、「犬と飼い主」のじゃれあいというのがしっくりくるかもしれない(もちろん安達が犬)。たとえ犬扱いでも安達なら特別な関係になれたと喜ぶかもしれないが。

 

二人の交際は順調にいっているように見えるが、どこかに暗い影を落としている。

安達はこれまで以上にしまむらからの絶対的な愛情を求める。しまむらが他の友だちと話しているのを見ただけで激しい嫉妬を向けるし、それを隠そうともしないようになる。

親を含め、他人から愛された経験のない安達は、初めて得た愛情に全力で突き進む。ぎこちなく、つんのめりそうになりながらも、自らの幸福に向かって走ることをやめようとはしない。そのことで他の大切なものがそぎ落ち、失われることになっても、安達はしまむらからの愛情の価値を固く信じている。そのために何を犠牲にしても、ひるむことがない。

 

しまむらは自身が安達の一途さに惹かれていることを自覚しつつも、安達に付き合うことで失っていくものを意識せざるを得ない。せっかく友情が復活した樽見も、自分の唯一の安らぎである睡眠さえも、安達のために手放さなければならない。

そして、しまむらは安達ほど愛に飢えてはいないし、他者を捨て去ることができない。

こうした二人の愛情のズレが次巻から波乱を起こすかもしれない。その予感が二人の関係に暗いものをもたらしている。

 

                ○

 

本書には番外編として、三つの小話が挿話されている。三つとも安達としまむらが高校で出会わなかったパラレルワールドを舞台としている。

番外編のテーマとなるのは人と人が巡り会う「運命」についてである。もし体育館で二人が出会わなくても、運命に導かれるように、何らかの形で巡り会う。朝の通勤時間の地下鉄で、または世界の終わる夜、小さな旅の道連れとして、もしくは宇宙人と地球人の立場であっても、何かに導かれたかのように二人は必ず出会う。

 

それは素敵なことではあるが、では運命に選ばれなかった人間(たとえば樽見のような)はどのような思いを抱え、人生を送るのか。それを描いたのが同じ作者の『少女妄想中。』である。