幽霊は昼歩く『降霊』 (1999 黒沢清)
郊外にある一軒家、そこにテレビの効果音技師、役所広司とその妻、風吹ジュンが暮らしていた。
外から見れば何の変哲もない夫婦だが、他の家庭とは大きく違う点が一つだけあった。風吹ジュンは死んだ人間を自分の身に下ろす不思議な力を持っていたのだ。ある日も素性の知らない女性を自宅に招いて、死んだ恋人の霊を自分の身に降霊させ、女性と会話して見せた。
そんな並外れた能力を持った妻に対しても、夫は当たり前のように受け入れて暮らしていた。何かの記念日があればささやかな外食を楽しみ、それを幸福だと笑って日々を過ごす、平凡な二人。
しかし、街で起こった少女誘拐事件に思わぬ形で関わった瞬間、夫婦の間に隠された感情がむき出しにされていく。
続きを読むグラス一杯の幸せに 『ジーサンズ はじめての強盗』 ザック・ブラフ
本作の最大の弱点、それは邦題のダサさである。『Going in Style』がなぜジーサンズになるのか。
ちなみに本作は『お達者コメディ/シルバー・ギャング』のリメイクである。こっちの邦題も相当ダサいが、これがあのマーティン・ブレストのデビュー作であるのには驚いた。『ミッドナイト・ラン』とか『セント・オブ・ウーマン』とか好きだったけど、今は何しているんだろうか。
続きを読むなんだばしゃぁぁぁぁ『安達としまむら』(入間人間)
『安達としまむら』は入間人間が「『ゆ○○○』みたいなの書いて」という編集のあんまりな要望に応えて書いた、百合ライトノベルである。
現在では七巻まで発売されていて、このブログでも七巻の感想を書いたことがあったが、どうせなら一巻から感想を書こうと思って改めて本作を読み直した。
続きを読む笑ってはいけない超特急 『バルカン超特急』(アルフレッド・ヒッチコック/1938)
アルフレッド・ヒッチコック、いわずとしれたサスペンス映画の帝王。今なお幾多の映画監督に影響を与える、映画史に残る大巨匠である。『バルカン超特急』はヒッチコックのイギリス時代の作品で、これと『巌窟の野獣』を撮ったあと、デヴィッド・O・セルズニックに招かれたヒッチコックはハリウッドに乗り込んだ。
そんな時期の作品なので、さぞかしヒッチコックも気合を入れて撮ったと思いきや‥‥‥。
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二大スターの奇妙な対決 『太平洋の地獄』(1968 ジョン・ブアマン)
安達としまむら(7) 入間人間
『いもーとらいふ』を読んだときにも思ったが、入間人間は働くことを実に嫌そうに書く。学生から社会人になり、これから何十年も同じ職場で働かなければならないことへの違和感、または会社に行くまでの、1日の始まりなのに体から抜けない疲労感、こういった社会人の乾いた生活を生々しく書けるのに、作者自身は社会人経験がないらしい。なんとなくずるい気がする。
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