陽のあたる裏路地

観た映画や、読んだ本について書くブログ。ぬるっと始めたので詳細はまだ不明。

『ブルベイカー』と吹き替え

先日、テレビで『ブルベイカー』というロバート・レッドフォードの古い映画をやっていた。途中から見たが、なかなかおもしろかった。

 

 

 

リンチ、賄賂、殺人のまかり通る刑務所を改善するためレッドフォードが赴任してくる。理想と正義に燃えるレッドフォードは囚人たちと生活を送るうちに少しずつ信頼を勝ち取り、刑務所を良いものへと導いていく。しかし、それを快く思わない奴らがいて………という内容だが、おもしろかったのはレッドフォードの囚人たちへの態度である。お前らはゲスな犯罪者たちだし、脱走すれば射つ。犯した罪を許すわけではいし、馴れ合いをする気もない。その代わり、囚人でも人間として扱うし、刑務所の秩序を大切にする。不当な暴力は許さない。

 

ひどい扱いをされているからひねくれてしまっただけで、きちんと心から向き合えば囚人ともわかりあえる」といったわかりやすいヒューマンドラマのような展開にならない。レッドフォードの囚人への態度は毅然としている。本作が公開されたのは1980年だが、ストーリーにも、映像にも70年代の乾いた空気が漂っていて、今見るとそれが清々しい。

 

登場する人間たちも一筋縄ではいかない。例えばある囚人たちは刑務所の改善を目指すレッドフォードに協力するふりをしながら、刑務所とグルになって利益を得ているし、しかも自分たちの犯罪の証拠を隠蔽しようとする。

 

味方であるはずの州知事側も、事なかれ主義を決め込んでレッドフォードの訴えを黙殺し、刑務所長の任まで解こうとする。味方を失ったレッドフォードは、それでも刑務所の大量殺人の証拠を掴み、世間に告発しようとするが………

 

この映画のハイライトはラストにある。レッドフォードは最後まで自分の正義を信じて行動するが、ついに大きな権力に破れ、刑務所を去らなければならなくなる。既に新しい所長が赴任しており、これまで自分が行った刑務所の改善策は撤回されようとしている。失意の中、刑務所を出て行こうとするレッドフォード。そのとき囚人の一人がレッドフォードへ歩み寄り、意外な言葉を伝える。そして囚人たちは、レッドフォードへ最後の「贈り物」をする。このラストシーンはちょっと観客にサービスしすぎのような気もするが、レッドフォードの行動は無意味ではなかったことを感じさせ、非常に後味良く映画は終わる。

 

映画自体も楽しめたが、それとは別に気になった点があった。今回は日本語吹き替え版の放送で、レッドフォードに声を当てていたのは野沢那智だったのだが、これがすこぶるかっこいい。自分にとってレッドフォードの吹き替えといえば磯部勉だったが、野沢那智のレッドフォードはより男臭く、押し出しも効いていて、それがこの映画には合っている。

 

野沢那智は『ダイ・ハード』のマクレーン刑事、あのクセの強い、事あるごとに呻いている演技の印象が強いが、今回は打って変わってスマートでかっこいい。これほどレッドフォードと相性がいいとは思っていなかった。

 

とくに刑務所の隠蔽に加担しながら、左遷されるレッドフォードに同情を寄せようとする女を「ウソをつけ!無理をするな」とつっ放すシーンは無性にかっこいい。その毅然とした演技が、レッドフォードによく合っている。

 

しかも当時のレッドフォード自身がむちゃくちゃかっこいいので、かっこよさの相乗効果でむしろトゥー・マッチな感じさえしてくる。おかげでレッドフォードがどれだけ窮地に陥っても、あまり悲壮感が湧いてこない。見てる方もこいつなら大丈夫、どんな危機でも乗り越えられる、なんて気になってくる。映画自身の魅力を損なっている面もあるかもしれないが、今回はその過剰なかっこよさがすごく楽しい。

 

基本的に映画は字幕で見る派だが、改めて吹き替えのおもしろさを再確認した。こういう「めっけもん」があるからテレビの映画放送もバカにならない。