石田監督の前作「陽なたのアオシグレ」はあまり好きになれなかった。なので今作も期待せずに見に行ったが、かなりおもしろかった。森見登美彦の世界が忠実に映像化されていた。
主人公のアオヤマ君にとって、世界はワクワクするような発見に満ちている。「プロジェクト・アマゾン」と名付けた川の探検や大好きな歯医者のお姉さんのことまで、日々の驚きをアオヤマ君は研究し、ノートに丁寧に保存している。
街中に大量のペンギンが出没する。「海」と名付けられた不思議な球体が宙に浮かぶ。森では「ジャバウォック」という未知の生物が蠢いている。アオヤマ君の暮らす街にはファンタジー小説に相応しいような、現実離れした事件が次々と起こるが、アオヤマ君はこれらの不思議な出来事を科学的に解明しようとする。
現実離れした出来事を観察し、仮設を立て実験し、検証する。子供の目で不思議を捉え、科学的に研究する。こういったところに一本の芯が通っているため、一見ジュブナイルやファンタジー小説のような作品がSFとして成り立っている。
また、アオヤマ君が研究に用いるノートやペン、森に作った秘密基地など、小道具も楽しい。
そうして街に深刻な異変が起こるうち、お姉さんの日常も変貌してしまう。自分は何者なのか?なんのために生まれてきたのか?街の様子が変貌していくのに合わせ、お姉さんは自分を見失い、苦しむこととなる。
そんなお姉さんをアオヤマ君は研究によって救おうとする。培ってきた科学の方法で、お姉さんの謎を解こうとする。
「お姉さんを救いたい」という思いが、これまでの研究が、ノートが、世界の真理の一端を暴き、その瞬間から物語は圧巻のクライマックスに向けて走り出す。
だが、それはお姉さんとの別れを意味していた。
少年の冒険は終わり、季節が巡って秋がやってくる。カフェで一人座っているアオヤマ君。
そこに、映画の作り手はあるサプライズを用意している。原作にはない映画オリジナルのシーンだが、あそこから「アレ」が戻ってきて再会できたことは、アオヤマ君にとってはこれ以上ない希望を与えてくれただろう。