陽のあたる裏路地

観た映画や、読んだ本について書くブログ。ぬるっと始めたので詳細はまだ不明。

ふとももとおっぱい『安達としまむら』(2)/入間人間

 

 

 この巻から安達はしまむらへの感情が家族愛よりも恋愛感情に近いことを意識し始める。それと同時にしまむらの胸に自分がどう感じるか妄想するなど、安達の言動はどんどん童貞くさくなっていく。女子高生がそれでいいのか。安達の迷走の度合いはどんどん深まっていく。

 また、今作から番外編として、しまむらたちの同級生の日野と永藤、自称宇宙人のヤシロとしまむら妹たち、それぞれのペアについての短編が収録されているのだが、これらの方が本編よりも百合の濃度が高い。

 特に、普段はボーッとして捉えどころのない永藤が、幼馴染の日野に向けるストレートな愛情表現には読んでてドキッとさせられる。それに比べれば、しまむらをクリスマスデートに誘うため頑張ってはいるが、安達はまだまだである。

 

 『安達としまむら』は他人への興味がうすい女子高生・しまむらと、しまむらに秘めた恋心を抱く同級生・安達の二人が主人公のライトノベルである。

 安達はしまむらと「特別な関係」になることを夢見ているが、自分の望みで関係が変わってしまうのを恐れてもいる。それでも諦めきれず、しまむらと徐々にでも仲良くなろうと色々な行動を起こす。

 努力の成果か、二人の仲は少し進歩した。一巻の頃は友だちと言えるか微妙な関係だったが、この巻では普通の友達といえるくらいになった。

 しかし、二人の間には依然として温度差がある。たとえばクリスマスに二人ででかける約束をしたあと、安達はクリスマスをしまむらとどう過ごすか、とにかく悩む。どうすればしまむらが退屈しないか、ひたすら悩み続ける。対してしまむらは気楽なもので、事前に安達へのクリスマスプレゼントを用意するが、それも安達のためというよりも「プレゼント交換でもしたら会話のネタに困らないかな」という程度の気持ちである。相手への気持ちの比重が偏っているため、二人の関係は少しいびつな形を描く。普段はクールなのに、しまむらのことになると暴走気味になる安達の姿は読んでいておもしろいが、ちょっと不憫な気持ちになる。

 

 本シリーズはしまむらの視点と、安達の視点を章ごとに行ったり来たりしながら進む。安達としまむら、二人の視点からみた二つの日常が物語を構成する。そして相手への思いの重さが違うように、二人の日常は同じものを見ていてもだいぶ趣がことなる。

 しまむらにとっての日常に大きな山場はないが、ゆるやかな起伏くらいはある。流れに身を任せるように、しまむらは日々をゆっくりとたゆたう。そうやって漂ううちに偶然出会った安達に対して、しまむらは淡いながらも友情を抱いているようだ。二人に固い結びつきがあるわけではない。それでもしまむらしまむらなりに、安達との関係を尊いものとして扱う。

 しまむらは人間関係のあり方を「形のないまま漂うもの」と定義する。「友だちはこうあるべき」とは考えない。そういう考え方は相手に不必要な期待を抱いてしまう。そういった勝手な期待が一度裏切られると、人間関係は修復できないほどこじれてしまう。

 そのせいか、しまむらは人間関係に執着を持てないでいるようだ。誰かと新たなつながりが生まれるにしても、それが潰えるにしても、自然の流れに身をまかせるようにふるまおうとする。

 しまむらの他者への淡白な接し方は相手に対してごまかさず、誠実に付き合おうとしている証しでもある。そうやって、しまむらは安達と自分なりの距離感を持って接するのだが、一方でそれは他人との距離感に固執しようとする面を見せる。一巻で安達を授業に誘ったり、一緒に帰ろうとしたりしたが、二巻では安達の好意を予感して避けるような素ぶりを見せたりもする。人間関係に達観した様子を見せるしまむらだが、その実はどこか不器用だ。

 

 一方で安達にとっての日常はしまむら側にはない激しさをはらんでいる。慣れない感情に七転八倒しながらも、しまむらへの結びつきを少しでも強いものにするため、安達は動き続ける。

 安達が求めるものはしまむとの「特別な関係」であり、それはしまむらが否定する明確な形を持った関係である。安達はしまむらとの間にそういったズレがあることに気づいている。ただ、それでも安達は歩みを止めようとはしない。

 

 しまむらが他の人と歩いているのを偶然見かけて傷つき、そんなことで傷ついたことに苦悩する安達。自分の胸の内の熱をしまむらと共有したいと思いつつも、その強い熱がしまむらの負担になることに気づいてもいる。

 それでも、現状を確認した上で、安達は諦めようとはしない。しまむらと出会ったという事実だけで、これまでの自分の人生を肯定できるほどの歓びを安達は感じている。この歓びが、(暴走気味だが)前進のための推進力となる。望みが叶う保証も何もないが、それでも夢へ向かって一歩ずつ、できることをやろうとする安達の姿には、こちらの胸を打つものがある。

 

 そして、しまむらから思いがけないクリスマスプレゼントをもらったとき、しまむらが自分のために行動してくれたことに歓喜しながら、次のようなことを考える。

 

「正しい使い方ではないだろうけど、ずっと部屋に飾っておくつもりだった。たとえば、本当にたとえば。いつか、しまむらと私が交わらなくなっても。」

 

 どれだけしまむらとの時間を築こうとも、いつか大切なものを手放さなければならない日が来るかもしれない。

 安達の物語に心動かされることがあるとすれば、それはこういった安達の切実さによるものだろう。

 

 しまむらの方も安達からの好意に(一応)気づいているようだが、それを受け止めることはできないようだ。

 それでも二人の仲は徐々に、ゆっくりと変化している。そしてこの変化は六巻で結実することとなる。

 この二巻での二人の葛藤があるからこそ、六巻で見せたしまむらの行動がより感動的なものとなるのだ。

 

 

 

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