陽のあたる裏路地

観た映画や、読んだ本について書くブログ。ぬるっと始めたので詳細はまだ不明。

『ドイツの小さな町』ジョン・ル・カレ

ドイツの小さな町〈上〉 (ハヤカワ文庫NV) 作者:ジョン ル・カレ 早川書房 Amazon 舞台となるのは反英感情が高まり、デモ行進やナショナリストの指導者のポスターが町中に張り出されている西ドイツの街、ボン。 そのボンでイギリス大使館の職員、リオ・ハー…

そこに幽霊が立っている『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ

ねじの回転(新潮文庫) 作者:ヘンリー・ジェイムズ 新潮社 Amazon 最近、黒沢清の映画『LOFT』を観て、偉いと思った。そこには恐ろしい幽霊の姿を現代に甦らせようとする、作り手たちの真っ当な努力があった。古典的な怪奇映画を進化させようとする姿には感…

名探偵スマイリー。それにル・カレの視線『死者にかかってきた電話』(2)ジョン・ル・カレ

死者にかかってきた電話 (ハヤカワ文庫 NV 188) 作者:ジョン・ル・カレ 早川書房 Amazon 著名な作家のマイナーなデビュー作を読むのは楽しい。シリーズ物となれば尚更だ。よく知っているキャラクターたちの若いころの(つまり、初登場時の)姿が新鮮でおもし…

54年後の爆弾『死者にかかってきた電話』(1)/ジョン・ル・カレ

死者にかかってきた電話 (ハヤカワ文庫 NV 188) 作者:ジョン・ル・カレ 早川書房 Amazon 当時、イギリス情報部の現役スパイであったジョン・ル・カレはこの作品で作家デビューを果たした。 物語の舞台となるのはドイツが東と西に分かれていた、冷戦下のイギ…

『帰去来殺人事件』山田風太郎

帰去来殺人事件: 山田風太郎傑作選 推理篇 (河出文庫) 作者:山田 風太郎 河出書房新社 Amazon 新宿の商売女たちの堕胎などを手がける闇医者でありアル中。そんな山田風太郎の生み出したアクの強い名探偵、荊木歓喜を主人公とした短編8作が収録されている。 …

『キマイラの新しい城』殊能将之

キマイラの新しい城 (講談社文庫) 作者:殊能将之 講談社 Amazon それなりにページ数もあるし、とっつきにくいかと思いきや、面白くて1日で読んでしまった。 これで殊能将之は『鏡の中は日曜日』と二作品を読んだことになる。 ストーリーはタイムスリップSF +…

『さよならに反する現象』乙一

さよならに反する現象 (角川書店単行本) 作者:乙 一 KADOKAWA Amazon とりあえず装丁が美しい。表紙に描かれた奇妙な図形たちが見る角度によって妖しく光って見せる。 たぶん2016年から2020年まで、様々な雑誌に掲載された短編を集めた短編集(ただし、「怪…

箱舟という悲劇『安達としまむら (10)』/入間人間

安達としまむら10 (電撃文庫) 作者:入間 人間 KADOKAWA Amazon ついに大台に乗った『安達としまむら』の10巻は、九つの短編による連作短編の形を取っている。 これらの短編の時系列は複雑で、安達としまむらのどちらかが主人公を務める主要な五編に限れば、…

『記憶の中の誘拐 赤い博物館』大山誠一郎

記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫) 作者:大山 誠一郎 文藝春秋 Amazon シリーズ物だが、前作は未読。大山誠一郎の作品は初めて読む。 まず気になるのはミステリ要素の充実に対して、物語の豊かさにはこだわっていないこと。 つまり推理小説の「推理」の…

1グロスは12ダース(144個)『虚構推理短編集 岩永琴子の純真』城平京

虚構推理短編集 岩永琴子の純真 (講談社タイガ) 作者:城平京 講談社 Amazon 作中で主人公の岩永琴子が「あるもの」を1グロスも差し入れしようとするシーンがあるので「グロスとはなんぞや」と思って検索したが、本当に業務用の<アレ>がページの上の方に出…

安達としまむら アニメ特典小説(4)『Abiding Diverge Alien』

安達としまむら Blu-ray 4(特典なし) 鬼頭明里 Amazon ※ネタバレありの記事です。 まさか『安達としまむら』で二人の初体験をめぐるストーリーが描かれるとは思わず、3巻の展開に読者は大きな衝撃を受け、喝采を叫んだ(多分)。 しかし、入間人間はこの特典…

安達としまむら アニメ特典小説(3)『ムラ』

安達としまむら DVD 3(特典なし) 鬼頭明里 Amazon ※ネタバレありの記事です。 この特典小説、それぞれクオリティが高いが、特にこの3巻はファンには是非読んでほしい。 もっといえば、安達としまむらのファンなら読まないと後悔するかもしれない。 というわ…

今後の予定

二ヶ月以上記事を書いてないうちに、安達としまむらの10巻が出てしまった。9巻の感想も書いてないのに。 10巻はちょっとずつ読んでいるが、やばいねこれは。 というわけで自分の尻を叩くために今後の予定をここに書いておきたい。 買っておきながらまだ読ん…

安達としまむら アニメ特典小説⑵『死間』

【Amazon.co.jp限定】安達としまむら Blu-ray 2(全巻購入特典:「描き下ろし全巻収納BOX」引換デジタルシリアルコード付) ポニーキャニオン Amazon ※ネタバレありの感想です。 特典小説の一巻では安達としまむらが社会人となり、同棲している様子が描かれたが…

安達としまむら アニメ特典小説⑴『Chito』

安達としまむら Blu-ray 1(特典なし) 鬼頭明里 Amazon ※ネタバレありの記事です。 『安達としまむら』のアニメDVD特典小説の感想を順番に書きたい。というわけで、まずはDVD第1巻に付属している小説『Chito』の感想から。 とりあえず全体の感想としては、「…

ミステリの感想その3

『殺人方程式』綾辻行人 殺人方程式―切断された死体の問題 (光文社文庫) 作者:綾辻 行人 メディア: 文庫 宗教団体の教主が、団体本部の隣のビルの屋上で首と左腕がない状態で発見される。なぜこんな場所で殺されているのか、そして犯人はなぜ被害者の体を切…

ミステリ感想その2

『すべてがFになる』森博嗣 すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&Mシリーズ (講談社文庫) 作者:森博嗣 発売日: 2012/09/28 メディア: Kindle版 超有名作であり、ファンも多いシリーズであるが、どういうわけか自分には合わなかった。 冒頭、物語は天…

『十角館の殺人』綾辻行人

十角館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫) 作者:綾辻行人 発売日: 2013/04/19 メディア: Kindle版 今年に入ってからミステリばかりを重点的に読んでいた。しかも新作とかではなく、ミステリファンなら読んでいて当たり前のような、そういった作…

「安達としまむら」は硬派なんじゃないか論

現在、アニメ『安達としまむら』が放送されている。 コミカライズが原作を一部改作しているのに対し、アニメ版はより原作に忠実に映像化されていて、原作ファンの自分は大いに楽しんで見ている(もちろんマンガ版も十分魅力的だし、アニメは花咲太郎のくだり…

12月12日、ジョン・ル・カレが肺炎で亡くなった。

89歳だった。 大往生と言っていい年齢であり、最近では自叙伝や伝記が出版されたこともあって、いつしか自分の中でこういう日が来ることへの覚悟ができていた気がする。 初めて読んだル・カレの作品は『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』で、高校…

渾身の変化球『スパイはいまも謀略の地に』/ジョン・ル・カレ

スパイはいまも謀略の地に 作者:ジョン ル カレ 発売日: 2020/07/16 メディア: Kindle版 前作『スパイたちの遺産』がこの作者の総決算のような刺激的な作品だったのに対し、今作は全体的にマンネリズムの感がある。 それでもさすがル・カレだけあって標準以…

「ランボー ラスト・ブラッド』エイドリアン・グランバーグ

ランボー5/ラスト・ブラッド [4K UHD+Blu-ray ※日本語無し](輸入版) -Rambo: Last Blood 4K- メディア: Blu-ray 前作『最後の戦場』はほんっとうに面白かった。映画館で見た当時、その日の疲れが全て吹っ飛んだほど興奮した。これと『ロッキー ザ・ファイナ…

『ぼっちーズ』入間人間

ぼっちーズ (メディアワークス文庫) 作者:入間 人間 発売日: 2015/06/04 メディア: Kindle版 大学生にもなっても友達ができない。一緒に授業を受ける相手も、笑いながら学食を食べる仲間もいない。そんな人間たちに謎の保険医(性別不明)から秘密基地が与え…

乙一の作品あれこれについて

『銃とチョコレート』 銃とチョコレート (講談社文庫) 作者:乙一 発売日: 2016/07/15 メディア: 文庫 昔から乙一はかなり読んでいたのだが、なぜかこの作品だけは未読でほったらかしになっていた。 で、改めて読んでみると二転三転する展開に周到な伏線と、…

『繊細な真実』+他

『繊細な真実』ジョン・ル・カレ 繊細な真実 (ハヤカワ文庫NV) 作者:ジョン ル・カレ,John le Carré 発売日: 2016/09/21 メディア: 文庫 さすがル・カレだけあって読ませる。秘密作戦、特殊部隊員との友情、陰謀を暴こうとする二人の男のサスペンス。高潔な…

『やがて君になる 佐伯さやかについて(3)』入間人間

やがて君になる 佐伯沙弥香について(3) (電撃文庫) 作者:入間 人間 発売日: 2020/03/10 メディア: 文庫 入間人間のすごいところは、キャラの心理描写がうまいところだ。しかもそれが他人の産んだキャラクターであり、さらに作中でも屈指の人気のある人物であ…

『Iの悲劇』米澤穂信

Iの悲劇 作者:穂信, 米澤 発売日: 2019/09/26 メディア: 単行本 過疎地への移住、「Iターン」を支援する市役所の人間たち。市長肝いりのプロジェクトだが、実務に励むのは「甦り課」の3人だけ。ぐうたらで定時になるとすぐに帰る西山課長。ちょっと仕事と先…

パセリコーラは飲んでみたい『本と鍵の季節』米澤穂信

本と鍵の季節 作者:米澤 穂信 発売日: 2018/12/14 メディア: 単行本 かなり真っ当な青春ミステリである。ここには省エネ主義の男子も好奇心旺盛な豪農の娘も、小市民を夢見る人たちもいない。主人公の堀川と松倉はただの高校生で、人気のない図書室の単なる…

『虚構推理 スリーピング・マーダー』

虚構推理 スリーピング・マーダー (講談社タイガ) 作者:城平 京 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/06/21 メディア: 文庫 アニメも絶賛放映中の『虚構推理』。アニメのエンディングの冒頭、画面いっぱいに映る模様はペイズリー柄という。なぜこの柄なの…

色々と感想文

本や映画についてのざっくりとしたメモ。 『日本列島』熊井啓 日活 日本列島 [DVD] 出版社/メーカー: NIKKATSU CORPORATION(NK)(D) 発売日: 2007/12/14 メディア: DVD 日本で暗躍するアメリカのスパイ組織について探る社会派サスペンス。 こういう映画に日活…