『ファット・シティ』(1972 ジョン・ヒューストン)
本作はアメリカン・ニューシネマの時代にジョン・ヒューストンが放ったボクシング映画。『ファット・シティ』はとびきりの成功を意味するジャズミュージシャンの用語である。かつては『ゴングなき戦い』という邦題で公開されていたはずだが、いつのまにかタイトルが変更されていた。
かつては有望なボクサーだったが、年をとってすっかり落ちぶた男と、将来有望な若手ボクサーが主人公であり、ままならぬ人生を送る負け犬たちの映画である。
とにかく人生をしくじった人たちの愚痴や爛れた生活が延々と続くため、盛り上がらないし、見ていて楽しくない。しかし、中盤の喧嘩のシーンから映画に引きこまれ、最後には映画の世界にしっかりと飲み込まれる。見終わったあとにはガツンと強烈なパンチをもらった気分になった。
続きを読む幽霊は昼歩く『降霊』 (1999 黒沢清)
郊外にある一軒家、そこにテレビの効果音技師、役所広司とその妻、風吹ジュンが暮らしていた。
外から見れば何の変哲もない夫婦だが、他の家庭とは大きく違う点が一つだけあった。風吹ジュンは死んだ人間を自分の身に下ろす不思議な力を持っていたのだ。ある日も素性の知らない女性を自宅に招いて、死んだ恋人の霊を自分の身に降霊させ、女性と会話して見せた。
そんな並外れた能力を持った妻に対しても、夫は当たり前のように受け入れて暮らしていた。何かの記念日があればささやかな外食を楽しみ、それを幸福だと笑って日々を過ごす、平凡な二人。
しかし、街で起こった少女誘拐事件に思わぬ形で関わった瞬間、夫婦の間に隠された感情がむき出しにされていく。
続きを読むグラス一杯の幸せに 『ジーサンズ はじめての強盗』 ザック・ブラフ
本作の最大の弱点、それは邦題のダサさである。『Going in Style』がなぜジーサンズになるのか。
ちなみに本作は『お達者コメディ/シルバー・ギャング』のリメイクである。こっちの邦題も相当ダサいが、これがあのマーティン・ブレストのデビュー作であるのには驚いた。『ミッドナイト・ラン』とか『セント・オブ・ウーマン』とか好きだったけど、今は何しているんだろうか。
続きを読むなんだばしゃぁぁぁぁ『安達としまむら』(入間人間)
『安達としまむら』は入間人間が「『ゆ○○○』みたいなの書いて」という編集のあんまりな要望に応えて書いた、百合ライトノベルである。
現在では七巻まで発売されていて、このブログでも七巻の感想を書いたことがあったが、どうせなら一巻から感想を書こうと思って改めて本作を読み直した。
続きを読む笑ってはいけない超特急 『バルカン超特急』(アルフレッド・ヒッチコック/1938)
アルフレッド・ヒッチコック、いわずとしれたサスペンス映画の帝王。今なお幾多の映画監督に影響を与える、映画史に残る大巨匠である。『バルカン超特急』はヒッチコックのイギリス時代の作品で、これと『巌窟の野獣』を撮ったあと、デヴィッド・O・セルズニックに招かれたヒッチコックはハリウッドに乗り込んだ。
そんな時期の作品なので、さぞかしヒッチコックも気合を入れて撮ったと思いきや‥‥‥。
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